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天の蛍歌词

蛍が好きだから、
お店の名前を《ほたるの酒場》と付けたのと、
あの娘は云ってました。
宵闇が訪れると、雨の日も風の日も、
間口五尺の小店の軒さきに明りが灯る憂き世小路。
あの娘の店もそんな路地のなかばにあり…。
店閉いをしたのは年の瀬だったか、
冬ざれのつめたい雨が降りつづいてましたっけ。
あそこもご多聞に洩れず地上げにあって、
櫛の歯が欠けるような有ようは、
ご時世と申すもんでしょうか。
人の情が肩寄せ合うような、
マッチ箱の賑わいが、いまは懐かしい。
あの娘の名前は、しあわせの幸子。
故郷の北国へ帰っていったと云う。

新宿 涙のすてどころ
ひきずるコートに 演歌がからむ
無口同士が とまり木で
隣り合ったも 縁だから
捨てておゆきよ捨てておゆきよ
こころ傷

しあわせも薄いのに幸子だなんて…。
故郷へ帰ってまもなく、
あの娘は天の蛍になったそうです。
運命とは命を運ぶことですが、
宿命とは前世から定められた命の宿り。
あの娘の人生は短い命の宿りだったのです。
この憂き世小路の片隅に、
蛍の墓をつくってやりましょうか。
供養のとむらい花は、
散ることも枯れることもないネオンの花。
歌はさしずめ演歌でしょう。
都会のにごり水に蛍は住めないが、
闇にほのかな明りを求めて、
人は酒という水辺を今夜も漂うようです。
蛍が一つ…幸子の蛍でしょうか。
ネオンの空に、天の蛍が流れていった。

なになにくずれか 知らないが
からんでくれるな 不運はおなじ
どうせこの世は うたかたと
のんで騒いで 夜が更けりゃ
雨も泣くよな 雨も泣くよな
露地しぐれ

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