兄との再会…母の死歌词
ある夜、一人で酔って街中を歩いていると、すれ違いざまに僕の名前を叫んだ奴がいた。
聞き覚えのある声にぎょっとした。
僕はとっさに走り出した。
「待って!」その声が追ってくる。
僕は必死に逃げたが、酔っているせいもあって、袋小路に逃げ込んだところをすぐに捕まった。
心臓がどくんどくんと音を立てて波打つ。
見覚えのある顔がすぐ目前に迫った。 ]
「お前、いったい何をしている。」
僕は顔を背けた。
「兄貴こそ、なんでこんなところをうろついているんだ。この辺は危ないぜ。」
兄は僕をじっと見せながら言った。
「母さんが死んだ。」
「?!」はっとして兄の顔を見た。
「お前が家を出ていってから、毎日のように泣いていた。
いつ帰ってきてもいいようにお前の分の食事を毎日作っていた。
毎日お前の分の寝床を作って、そして熱にお前が帰ってくるのを待っていたんだ。
そしてそのうち、床に臥せるようになり、とうとう。。。」
僕は呆然と兄の言葉を聞いていた。
「母さんが死んだ。。。?」
まだ幼い頃の記憶にある優しかった母の面影が脳裏に浮かび、思わず涙がこぼれそうになった。
それを兄に見られたくなくてまた顔を背け、自分でも思いもよらない言葉を口にした。
「それも俺のせいだって言いたいのか?」
「なに?」兄の形相が変わった。
僕はふてくされたように言った。
「だって、そうだろう?兄貴は優秀だったけど、俺はいつも家族の重荷でしかなかった。
俺が出ていったのも、口減らしてちょうどよかったんじゃないのか?」
「バカやろー!」言うが早いか、兄の鉄拳が僕の顔面に飛んできた。
「くわああ!」その勢いで一度は吹っ飛んだが、すぐに体勢を立て直し、兄狙って突進した。
喧嘩じゃもう誰にも負けない。
兄貴にだって。。。そんな自負もあってのことだったが、兄の顔を見たとたん、体が動かなくなった。
「バカやろー!」また兄の鉄拳を浴びた。
目を真っ赤にして泣きはらした顔で拳を振るう兄。
こんな兄の顔は一度だって見たことがない。
殴られたのさえはじめてだった。
顔の痛みは心の痛みに変わった。
今度は全力でその場を逃げ出した。
「待って!」という兄の叫びが再び聞こえる。
その声からとにかく逃れたかった。
声が聞こえなくなるまで全力で街を駆け抜けた。
僕は呆然としながら、夜の街をとぼとぼと歩いた。
もう兄の声は聞こえない。
「母さんが、死んだ。。。?」涙があふれて止まらなかった。
ついには道端にしゃがみ込んで、人目も憚らずに泣いた。
「俺の。。。俺のせいで。。。」
兄は僕を追い詰める意味で言ったんじゃない。
それはわかっていた。
でも、病弱な母を死に追いやったのは間違いなく自分だと思った。
そして、現実から目を背けるようにまた逃げ出した自分がここにいる。
「所詮。。。俺は駄目な人間なんだ。。。」
目の前のバーに入って、カウンターで酒をあおった。
いくら飲んでも酔えない。それに飲めば飲むほど悲しみが深くなる。
そのうち、だんだんと意識が薄れてきた。