千寿ムラマサと新婚生活 これはあるかもしれないイフの話だ 仕事から帰り、自宅の玄関扉を開くと 割烹着姿の女性が俺を出迎えた ムラマサ:「お帰りなさい、正宗君」 正宗:「あっ、ただいま、花ちゃん」 ムラマサ:「うん、(>ω<)」 正宗:「おい」 ムラマサ:「だって、寂しがったんだもん」 正宗:「な、何であれ? あの千寿ムラマサ先輩が」 ムラマサ:「正宗君、明日はずっと一緒にいられるのだろう」 正宗:「ああ、ずっと家にいるよ」 ムラマサ:「そうか。えへへ、よかった」 千寿ムラマサ、本名梅園花 彼女は家だと非常に甘えん坊になってしまうのだ 初めて会ったころ俺は彼女のことを ここの狼のようだと思っていた ムラマサ:「正宗君正宗君、私な、今日はとても面白いシーンが書けたのだ ぜひとも呼んで感想を聞かせてほしい」 完全に子犬、マメシバの類 正宗:「わかった、すぐ読む 俺も今日打ち合わせて、新刊の内容を決めたんだ 聞いてくれるか」 ムラマサ:「もちろんだ いや、待て 先に内容を聞くのはよくない 早く書き上げて、読ませてくる」 正宗:「そういうところ 本当に出会ったころから変わらないな」 ムラマサ:「当然だろう 私は最初からずっと君の大ファンなのだから」 正宗:「俺も 初めて読んだ時から千寿ムラマサの大ファンだよ」 大ファンで、ライバルで、宿敵だった ペンネームも、作風も特技さえも俺と似ている 和泉正宗の上位交換、千寿ムラマサという作家に 何度も何度も企画をつぶされて、収入源を閉ざされて あいつさえなければだと恨んだこともある そもそも、男だとばかり思っていたし そんな宿敵とこんな関係になるなんてな ムラマサ:「あっ、あのう」 正宗:「(/ω\)あっ、ごめん」 ムラマサ:「すまない、つい話し込んでしまったな 続きは食事をしてからだ 今夜の献立は肉じゃがと魚の煮物だ 君好きだろう」 正宗:「ああ、腹ごしらえをしたら小説書こう」 ムラマサ:「うん」 場面変わって同日の夜 俺たちは同じ仕事場で執筆に励んでいた 甘えん坊な婚約者もこの時ばかりは話しかけてこない お互い自分の文章にのみ向き合い しかし、体の一部が振り合うような近さで 机を並べて小説を書き続ける だんだんと、だんだんと しゅくしゅくと、しゅくしゅくと ただひたすらにいい物語を 愛する人にとっての世界で一番面白い小説を書き続ける もともと小説を書くのは好きだったけれど 毎日毎日好きな人に君の小説を読ませるとせがまれて はるか隔遠の実力者から「ああ、面白かった」と笑いかけられて そんな日々を続けていたら そりゃ上達もする、やる気だって出る 最高の修行環境だ 実際、和泉正宗の実力は数年前と比較して格段に上がっているだろう 千寿ムラマサと比肩するほどに、山田エルフを抜き去るほどに 奇跡だと思っている きっと、ほかのどんな未来を見渡してみても こんな世界はありはしない 小説づけ、仕事づけの毎日 規則正しく、十一時には床につく ムラマサ:「正宗君、起きているか」 正宗:「先輩っ」 ムラマサ:「先輩はもうよせと言ったろう」 正宗:「おい、何をやって」 ムラマサ:「今日は私もこっちで寝るからな」 正宗:「ええ、この家には、紗霧だっているのに」 ムラマサ:「そんなに驚くことはなかろう たまにはいいじゃないか って、き、き、君、変なこと考えたろう」 正宗:「考えてない、考えてない、変なことってなんだよ」 ムラマサ:「それは、その......だな とにかく、今日はここで寝る 寝るっだら寝るの、いいな まったく、君のすけべいはちっとも治らないな」 正宗:「そっちこそ、すけべだと思うけどな」 ムラマサ:「やっ、わ、わ、私のどこがすけべだと」 正宗:「見た目って言ったら怒るよな な、エロマンガ先生やエルフみたいに大分なエロさとはまた違う 俺の婚約者様は率直に言って」 ムラマサ:「率直に言って?」 正宗:「むっつりすけべだ」 ムラマサ:「(ノ`Д)ノ」 正宗:「いたっ、何だよ」 ムラマサ:「知らん、バカ者」 寝返りを打って、俺に背を向けてしまう ごまかしやがって、絶対むっつりなんだよな、この人は そのまま眠る流れになるのかと思いきや 正宗:「えっ、ちょ、ちょ、何こっちの布団に入ってきてんの」 ムラマサ:「こっ、今夜は添い寝をしながらお話をするからな」 正宗:「お話って、今日は本当にどうしたんだよ」 ムラマサ:「いいか、 大事なことを改めて伝えておくぞ 私はむっつりすけべなどではない 私がこうやって君に迫るのは 君のことを愛しているからだ」 正宗:「う、うん」 ムラマサ:「(>人<;)、愛する人に寄り添いたいというこの衝動 そんな俗な言葉で括ってほしくはないな、後輩」 正宗:「悪かったよ、先輩」 ムラマサ:「分かればよい というわけで、添い寝しながらお話するぞ、正宗君」 正宗:「うん、何の話をしようか」 ムラマサ:「そうだな、私がどれほど君を愛しているか、というのはどうだろう」 俺たちの新婚生活はこんな感じ 忙しくも充実した日々を過ごしている