epilogue(幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life) 懐かしい夜は記憶が終わった頃 私はゆっくりと目を覚ました。 そう言えば、あの時… 妖夢は目がおかしくなっていた。 そんなことを思い出して、ずいずい笑ってしまう。 あの子は本当に半人前だけど、 それでも、やっぱり側に置いていまう。 それはきっと、 私にとって、彼女もまた、大切な夢の一つだからなのかもしれない。 やがて、はっきりと目を覚した私は、不意に何かの香りを感じた。 それは、どこか暖かい風に乗ってやって来た。 静かで、優しい、春の澄香(かおり)。 そんな風を楽しみながら、お茶を手に持った時、 ひらり、と、湯飲みの中に、一片の花びらが舞い降りた。 嗚呼! ようやく、来るのかもしれない、 私の大好きな季節が。 すっかり目を覚ました私は、静かに目を閉じると、 「今日くらいはみんなで…」なんて思いだって、 柔らかな風の中、そっと立ち上がって、 可愛いらしい庭師を呼び付ける。 「もうすぐお花見をするから、みんなを集めなさい。」 っと。 ーーそれは、柔らかな風の中、桜色の白昼夢を見た日のことだった。